Hotline Tokyo12は初の2本立てで行われた。テーマは「ワールドゲーム:ゲームにおけるドキュメンタリー・エスノグラフィの新たな潮流」。第一次世界大戦を描いたパズルアドベンチャー『Valiant Hearts: The Great War』(バリアント ハート ザ グレイト ウォー)とアラスカ先住民の文化や伝承を基にしたパズルアクション『Never Alone』を扱った。
残念なことに当日の実況動画は残っていない。しかし、4月にPlayStation Plusフリープレイに同2作が選出されたこともあり、にわかにTwitterなどで感想戦が盛り上がっている今、参加者のうろ覚えの記憶や、司会の進行資料、Twitter実況をまとめたものだけでも記録を残しておきたいと思いここに書き記す。
そもそもワールドゲームとはなにか?
まず司会のshinimaiによって「ワールドゲーム」という言葉が説明された。これは『Never Alone』の開発者が「ワールドミュージック」になぞらえて提唱しているジャンルだ。ビデオゲームが非西洋の文化や世界観を扱うことはこれまでもあった。有名なところでは『Prince of Persia』やその延長線上の『Assassin's Creed』に見られる中東の世界。また日本では自国や中国(カンフー的なものや三国志など)の歴史物などを題材にしてきた。若干マイナーな例だとインディーの老舗WayForwadはペルシアのベリーダンサーを主役にした『Shantae』シリーズなどもある。
しかしながら、これらは大なり小なりいわゆる「オリエンタリズム」に陥っているだろう。つまり西洋が一方的に東洋や異国を眺め、偏見や脚色に満ちたものが多い。それに対して、今回の2作品はゲームのために設定や世界観を借りてきたというよりも、その世界観そのものを表すために丁寧な取材や事実調査にもとづいてゲームを作っている。
似たような事例は昨今のインディーゲームでいくつか見られる。有名どころでは『This War of Mine』はサラエヴォ包囲という歴史的事件を丁寧にゲームに置き換えた。またシリアスなドキュメンタリーがMODやRPGツクールやノベルゲームという簡易なツールで作られるケースは多い。
<ドキュメンタリー性のあるゲーム>
- half-life MOD 「ESCAPE FROM WOOMERA」 参考記事:"政府が恐れたhalf-life MOD 「ESCAPE FROM WOOMERA」 未完のドキュメンタリーゲーム" - GAME・SCOPE・SIZE
- ツクール製のコロンバイン高校銃乱射事件を基にした「Super Columbine Massacre RPG!」
- 東北の民話をもとにしたノベルゲーム「KiTAN」
- 90年代戦時下のサラエヴォを舞台としたサバイバルシミュレーション「This war of mine」 参考記事:"『THIS WAR OF MINE』 一般市民の視点で戦争を描いた異色作【とっておきインディーVol.27】"
- 李氏朝鮮を下敷きにしたSFノベルゲーム『Analogue: A Hate Story』 参考記事:"『Analogue: A Hate Story』珍しい海外産ビジュアルノベル【とっておきインディーVol.010】"
参加者自己紹介と感想ハイライト
ニカイドウ:『Valiant Hearts』が好き。しかしゲーム性に欠けるところや単調さもあるので3/5点。でも演出がいい。比較するゲームは『HEAVY RAIN』
おは日:『Valiant Hearts』が好き。5/5点。比較するゲームは『Scribblenauts』。見た目が似ている。
EABase:両方プレイした。おもしろいとつまらないが半々。『Valiant Hearts』と比較する作品は漫画だけど『アランの戦争』。
ハヤニエモズ:両方とも好きではない感じだけどクリア済み。『Never Alone』の動画は楽しかった。メガネの髪を結んでいる人が好き(賛同者多数)。
msrw:『Never Alone』派。『Valiant Hearts』クリアしてない。3/5点。インタラクティブメディアとして見ている。動画がいい。動画を見る方が主軸で、そのためのゲームだった。比較作品は爽快感の無い『ストライダー飛龍』。
佐藤:まだ両方とも未プレイだけど興味があって参加してみた。説明や動画だけ見ると『Never Alone』派。扱っているテーマが「知られていないアメリカ」なので興味が湧いた。連想したタイトルは、テーマでなく地域がかぶっている、アラスカのカニ漁シミュレーションゲーム『Deadliest Catch: Alaskan Storm』
えま:『Valiant Hearts』派。『Never Alone』は最初がよかったけど後半が単調な繰り返しすぎるのと狐ちゃんが…。『Valiant Hearts』は逆に最後に向けて盛り上がってくる。やることにも変化が多かった。比較ゲームは、『パペッティア』。コンパニオンがいる2Dプラットフォーマーなので。
Gavin:『Never Alone』派。ゲームを知らない両親に見せても面白そうだなと思われそう。
丸山:『Never Alone』派。アーカイブとして凄いいい。『Valiant Hearts』の歴史資料は読んでも読まなくてもいいよぐらいの感じで、『Never Alone』は動画でわかりやすくて良かった。デジゲー博でゲームあんまやらなそうなお姉さんにも評判よかった。
アンタッチャブル:『Never Alone』しかやってない。アクションゲームの要素がイヌピアットの伝承に深く関わっているのがいい。キツネがああなるのも伝承が背景にある。似ているゲーム、『Limbo』(たしかに最初のクマが落ちるシーンは『Limbo』っぽい)。
hahaha:『Valiant Hearts』派3.5/5点、似ている『Medal of Honor: Allied Assault SPEARHEAD 』、メディック(衛生兵)エピソードが。
死に舞:『Valiant Hearts』クリアしてない。ゲーム内の音楽の使い方がよくない。バリアントは単純なポイントアンドクリックとアクションを混ぜている。それが食い合せ悪い。その点、『Never Alone』は2Dプラットフォームなのでそういう違和感はない。
『Never Alone』についての議論
『Never Alone』は3Dグラフィックスによる2Dプラットフォームゲームだ。ジャンプとコンパニオン・アニマルの操作を軸とした内容で、当日はアクション要素、ビジュアル、ストーリーが議論になった。
アクションとして
- 弱い主人公が強いボスをやっつける仕掛けが面白かった。特に最初のシロクマの圧倒的に勝てなさそうな感じなど
- アクション苦手な人は意外とバンバン死ぬ死にゲー
- ボーラの操作性がクソ。でもボーラは元々現実でも難しいそうなので、ある意味ではそれが忠実に反映されていると言えるかも
表現
- 狐ちゃんが超かわいい
- 雪の表現が良かった
- 映像美にこだわっているのに3Dでなく2Dなのは、ゲームをやらない人にも親しみやすいため開発が意図的にこだわったポイントらしい
ドキュメンタリーについて
- ドキュメンタリーの長さや挿入タイミングが邪魔にならないギリギリのバランスで良かったし、内容も面白かった。眼鏡長髪おじさん大人気。
- ドキュメンタリー映像取得はチェックポイントを通過したら自動入手の方が良かったのではないか。取り逃したフクロウの為にやり直すほどのゲームかというとちょっとツライ
- ドキュメンタリーとゲーム部分が別物すぎた。もっとゲームの中身やストーリーの中にドキュメンタリーの情報をシームレスに組み込んでほしかった(ニカイドウ)
印象的なシーン
- 吹雪の原因がわかるところ(アンタッチャブル)
- 好きというか強く印象に残っていてちょくちょく思い出して怖いのが「首でサッカー」(丸山)
- 魂が現れるところ。ゲーム内システムをドキュメンタリー映像でうまく説明している(Gavin)
- ドキュメンタリー映像部分が面白かった。当たり前だが英語だけ聞くと普通のアメリカ人やカナダ人と変わらないし、携帯電話も使っているけど、並行して別の文化でも育っていることが興味深かった(えま)
- 吹雪を利用して逆に飛ぶアクション。自然に抗うのではなく、自然を利用する。ドキュメンタリー映像にも出てきた概念が、ゲームの中にも反映されている(msrw)
- 巨人登場シーン。圧倒的スケールのでかさ(モズ)
- ムービーとゲームが交互になる。村上隆みたいな。現実の人が話していることがゲームになっている(EAB)
- ドキュメンタリー部分は編集もいいしゲームにも反映している。時間もちょうどいい(おは日)
『Valiant Hearts』についての議論
『Valiant Hearts』は第一次世界大戦をテーマにしたポイント&クリックっぽいアドベンチャー。フランス人、ドイツ人、アメリカ人、ベルギー人が操作可能キャラクターで、ステージごとに視点が変わる群像劇的物語。主にゲームのプレイ感とそのテーマが議論になった。
- コンパニオン犬が最高にかわいい(言及者多数)
- 地の文は英語(日本語版はもちろん日本語)だが、ちょっとしたリアクションボイスでは各キャラが各国語を喋る事で感じられる「ヨーロッパっっぺええ」感じ、細部に渡る史実に基づいた描写で、その時代その場所へのトリップ感が満喫できる。元々歴史好き、群像劇好きなのですごく良かった。単調で繰り返しが辛いというか「まだあるのか」と感じる章もあったが、ある意味戦争に振り回される一兵卒の辛さ、虚しい気持ちをヴァーチャルに体験しているような気持ちになれた…もしかして…これってナ ラ ティ ブ…!(えま)
- カーチェイスの流れが最高に良いので、ここまでプレイしていない人はそこまででもやってみるべき名シーン
- ラストの展開が名シーンだらけ。きちんと今までのプレイの伏線を回収してお話を終えている。隊長を殴るとこ、奥さんを運ぶ、アンナが治療すること。「今までずっと後ろから殴っていた。それならここで殴るだろう」とか。治療のミニゲームは途中までうんざりだったが、カールを助けるときは緊張して使命感を感じ、今までの積み重ねが活かされる演出が良かった(ニカイドウ)
- 犬がかわいかった。ネコは戦争で役に立たない。ゲーム中の要素が戦争の世界観にあっている。靴下を洗って渡すシーン、資料を読むと史実性がある。なんでもないシーンが史実性(おは日)
- ・アイテム拾ったら犬用のマスクで、「あ、あるんだ感」。子供だけ目があった。大人は目が描かれていない。キティちゃん理論的に抽象化して感情を想像してほしいからではないか。カールの知らせを受け取ったエミールは同じ顔なのに悲しそうに見えた(丸山)
- 2Dの見かけでいろんなことを説明する。バンドデシネ的表現をゲームで使う。もっと可能性があるのでは?犬かわいい。キツネには負ける。決定的にキツネがいいときは主人公が死んだとき。動物があんなモーションとるなら死ぬ。あのフードはやめろ(死に舞)
- 犬がよかった。白人だけだと白人以外の国で出ると好感は持たれない。犬など動物のキャラクターを入れることでどこの国でも受け入れられるというテクニックがある(佐藤)
まとめ
ドキュメンタリー、エスノグラフィー、民族史、本来的にはテキストで書く。それ以降、映像化はされている。ビデオゲームでやることに意味はあるか。ゲームであることでいいことはあったか?
・イランでは政府が自国の歴史を若者に教えるために政府がお金を出して歴史ゲームを作っていて”First Person Historical”というゲームジャンルが確立されている(佐藤)
・おおまかな結論:とっかかりとしての意味はある
上述の通り、この2作品は5/6までPlayStation Plus利用者は無料でダウンロードできた...。今すぐにプレイ出来なくても一度ダウンロードさえしておけば後でゆっくりプレイする事も可能だ。また現在Valiant HeartsはiOS版でも第一章が無料となっているので、すこしでも興味があればぜひこの機会にチェックしてみるとよいだろう。
(PC/PS3/PS4/Xbox 360/Xbox One/iOS/Android)
(PC/PS4/Xbox One)
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